
「腰痛を治すために、腹筋運動を頑張っています」
「ジムに通って背筋を鍛えているのに、痛みが引きません」
診察室で患者様からこのようなお話を聞くたびに、私は専門家として「待った」をかけます。

はっきり申し上げます。
腰痛がある状態で、自己流の筋トレをすることは、火に油を注ぐようなものです。
なぜなら、あなたの腰痛の原因は「筋力不足」ではなく、「脳と筋肉の連携ミス(システムエラー)」にあるからです。
この記事では、最新の解剖学と運動力学の視点から、「姿勢の崩れ」から始まり「筋肉の機能停止」に至るまでの“腰痛の全貌”を解き明かします。
【第1章】すべての始まりは「局所への負担増」
そもそも、なぜ腰の筋肉は固くなるのでしょうか?
それは、腰のある一点にだけ、異常なストレスがかかり続けているからです。
現代人の典型「スウェイバック姿勢」

今、最も多い不良姿勢が「スウェイバック(Swayback)」です。
デスクワークやスマホの見過ぎで、骨盤が前にスライドし、背中が丸まっている状態です。
一見、楽な姿勢に見えますが、実は上半身の体重が腰椎(腰の骨)の一点に集中しており、関節や靭帯は常に悲鳴を上げている状態です。
股関節がサボると、腰が犠牲になる
もう一つの大きな原因が、「股関節の使い方」です。
人体には「ジョイント・バイ・ジョイント(Joint by Joint)」という重要な法則があります。
関節の役割分担の法則
- 股関節: よく動くべき関節 (モビリティ)
- 腰椎(腰): 安定すべき関節 (スタビリティ)
- 胸椎(背中): よく動くべき関節 (モビリティ)
現代人は、座りっぱなしで「股関節」と「胸椎」がガチガチに固まっています。
本来動くべき場所が動かないため、その代償として「安定しているべき腰」が無理やり動かされ、過剰な負担がかかってしまうのです。
この「負担」に対して、腰の筋肉たちはどう反応するのでしょうか?
そのメカニズムを理解するために、まずは腰痛に関わる筋肉を「2つのチーム」に分けて整理しましょう。
私たちが治療する際、筋肉を以下の2つのシステムに分けて評価しています。
| 分類 | アウターマッスル (グローバル筋) | インナーマッスル (ローカル筋) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 関節を動かす 大きな力を出す | 関節を安定させる 微細なコントロール |
| 代表的な筋肉 | ・脊柱起立筋 ・腰方形筋 ・腹直筋(シックスパック) ・広背筋 | ・多裂筋(背骨の深部) ・腹横筋(コルセット) ・骨盤底筋群 ・大腰筋(腸腰筋の深部) |
| 腰痛時の状態 | 【過緊張・スパズム】 守ろうとしてガチガチに固まり、痛みを発する(犯人)。 | 【機能不全・抑制】 スイッチが切れ、フニャフニャになり支えられない(黒幕)。 |
| スタミナ | 疲れやすい(瞬発力) | 疲れにくい(持久力) |
※ポイント:
一般的に「背筋」と呼ばれる脊柱起立筋や、腰の横にある腰方形筋はアウターマッスルに分類されます。
これらは「動くための筋肉」なので、姿勢維持のために長時間使い続けるとすぐに酸欠になり、痛みの原因となります。
【第2章】腰を守るための「過剰防衛」が痛みの正体
姿勢や使い方の悪さで、腰に限界を超える負担がかかった時、体はどうするでしょうか?
脳は緊急指令を出します。「これ以上動かすな!固めて守れ!」と。
ここで登場するのが、アウターマッスルとインナーマッスルの「悲しいすれ違い」です。
① アウターマッスルの「スパズム(過緊張)」
本来は体を動かすための筋肉である「腰方形筋(ようほうけいきん)」や「脊柱起立筋」、そして「腸腰筋(ちょうようきん)」が、腰を守るためのギプス役として緊急動員されます。
彼らは全力で収縮し続け、ガチガチに固まります。これが「コリ」や「痛み」の正体です。
痛みは、筋肉があなたを守ろうとして起きた「過剰防衛」の結果なのです。

実際に、患者様に「横向き」に寝ていただき、腰の深部にある「腰方形筋」を触診すると、悪化している方は飛び上がるほど痛がります。
これは筋肉が凝っているレベルではなく、体を守るために「常に全力で力んでいる(スパズム)」状態だからです。
② インナーマッスルの「強制シャットダウン」
さらに恐ろしいことが起きます。
関節に痛みや腫れがあると、脳は反射的に「深層の筋肉(多裂筋・腹横筋)のスイッチを切れ」という命令を出します。これを医学的に「関節原性筋抑制(AMI)」と呼びます。
つまり、腰が痛い人ほど、腰を支えるためのインナーマッスルが機能停止(サボり)状態になっているのです。
【第3章】「スターター」が故障した体
インナーマッスル(多裂筋など)には、手足を動かす「0.03秒前」に先回りして収縮し、背骨を安定させる「スターター(初動)」としての役割があります。

「スターターが故障している」と言われてもピンとこないかもしれません。
しかし、当院の検査でそれがはっきりと分かります。
仰向けに寝ていただき、「お腹を凹ませながら、足を上げてください」と指示しても、腰痛のある患者様の9割は、足が上がりません。あるいは、腰が反ってしまいます。
「頭では分かっているのに、体が言うことを聞かない」
このもどかしい状態こそが、インナーマッスルのスイッチが切れている証拠なのです。
しかし、腰痛の方はこのスターターが故障しています。
その結果、以下のような「負の無限ループ」に陥ります。
- 動く瞬間に腰がグラつく(スターター不全)
- 脳が危険を察知し、アウターマッスルをさらに固める
- 筋肉が酸欠になり、痛みが増す
- 痛みのせいで、ますますインナーのスイッチが切れる
この状態で無理に腹筋運動をしても、固まったアウターマッスルをさらに痛めつけるだけで、根本解決にはなりません。
【結論】「緩める」と「入れる」の同時アプローチ
この悪循環を断ち切るには、順序が重要です。
なかの接骨院では、以下の2ステップで治療を行います。
「緩める」だけでは、支えがなくなり再発します。
「鍛える」だけでは、痛みが邪魔してうまく入りません。
この両方を同時に行うことこそが、長年の腰痛を終わらせるための唯一の道なのです。
当院が導入している「SIXPAD MEDICAL Pro」は、腹横筋や多裂筋だけでなく、鍛えにくい「骨盤底筋群」にも同時にアプローチ可能です。
「腹筋運動で腰が痛くなる」「産後の体型が戻らない」という方にこそ、解剖学に基づいたこのアプローチが必要です。
詳しいメカニズムや、当院での活用法については、以下の記事をご覧ください。
- あなたの腰痛タイプは?
→ 【腰痛の教科書】「ずっと痛い」vs「繰り返す」タイプ別診断 - 最新機器の選び方
→ 【徹底比較】楽トレ vs SIXPAD MEDICAL Pro
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