「知人が事故で複雑骨折してしまったらしい…」
「ニュースで複雑骨折と聞いて、骨がバラバラになった状態を想像した」
院で患者様とお話ししていると、このように「複雑骨折=骨が粉々に折れた状態」と思われている方が非常に多いです。
しかし、実はそのイメージ、医学的には少し違います。
本来の「複雑骨折」は、骨の折れ方ではなく「傷口の状態」を指す言葉であり、放置すると非常に危険な状態なのです。
この記事では、多くの人が誤解している「複雑骨折(開放骨折)」の正しい意味と、混同されがちな「粉砕骨折・複数骨折」との違い、そしてなぜ専門家がこの状態を危険視するのかについて、分かりやすく解説します。
【図解】「複雑骨折」と「粉砕骨折」の違い
まずは結論からお伝えします。
皆さんがイメージする「骨がバラバラになる骨折」と、本当の「複雑骨折」は全くの別物です。
| 用語 | 状態 | 医学的名称 |
|---|---|---|
| 世間のイメージする 「複雑骨折」 | 骨が何箇所も折れている 骨が粉々になっている | 複数骨折 粉砕骨折 |
| 本当の意味での 「複雑骨折」 | 折れた骨が皮膚を突き破り 外に飛び出している | 開放骨折 (複雑骨折) |
1. 多くの人が思うのは「粉砕骨折(ふんさいこっせつ)」
「1本の骨が何箇所も折れている」「木っ端微塵になっている」状態。
これは医療現場では「粉砕骨折(ふんさいこっせつ)」や「複数骨折(ふくすうこっせつ)」と呼ばれます。
強い衝撃(交通事故や転落など)で起こりやすいですが、皮膚から骨が出ていなければ、それは「単純骨折(皮下骨折)」の部類に入ります(※折れ方は単純ではありませんが、分類上はそうなります)。
2. 本当の複雑骨折は「開放骨折(かいほうこっせつ)」
我々専門家が言う「複雑骨折」とは、「折れた骨が、皮膚を突き破って外の空気に触れてしまった状態」のことです。
ポイントは「骨が何本折れたか」ではなく、「骨が外に出たかどうか(皮膚に穴が開いたか)」です。
現在では誤解を避けるため、医療現場では「開放骨折(かいほうこっせつ)」という名称が一般的に使われています。
・骨がバラバラ = 粉砕骨折
・骨が皮膚から出ている = 複雑骨折(開放骨折)
なぜ骨が出ると「複雑」で危険なのか?
「骨が飛び出しただけで、名前が変わるの?」と思われるかもしれません。
しかし、骨が空気に触れるということは、治療の難易度が跳ね上がることを意味します。理由は大きく2つあります。
① 感染症のリスクが非常に高い(骨髄炎)
これが最大のリスクです。
本来、無菌状態であるはずの骨や筋肉が外気に触れると、そこから細菌が侵入します。もし骨が細菌感染を起こして「骨髄炎(こつずいえん)」になってしまうと、骨が腐ったり、最悪の場合は切断が必要になったりすることもあります。
そのため、緊急手術で徹底的に洗浄する必要があります。
② 周囲の組織(血管・神経)も破壊されている
骨が皮膚を突き破るほどの力が加わったということは、その通り道にある筋肉、血管、神経も激しく損傷しています。
骨をくっつけるだけでなく、神経や血管の修復も必要になるため、治療過程が文字通り「複雑」になるのです。
骨折の分類マップで確認
文章だけでは分かりにくいので、分類マップで位置付けを確認してみましょう。

この図のように、骨の折れ方(完全か不完全か)とは別の軸で、「皮膚が破れているかどうか」という非常に重要な分岐点があることが分かります。
もし交通事故などで「骨が見える」怪我をしたら?
もし事故現場などで、骨が見えている(開放骨折の疑いがある)場合は、以下の対応が重要です。
- 絶対に傷口に触れない(細菌感染を防ぐため)
- 飛び出た骨を無理に戻そうとしない(血管や神経を傷つける恐れがあります)
- 清潔なガーゼやタオルで覆う(止血と保護)
- 直ちに救急車を呼ぶ
まとめ 言葉の違いを知ってスムーズな連携を
最後にポイントをおさらいします。
- 皆が思う「バラバラの骨折」 → 正しくは「粉砕骨折」「複数骨折」
- 本当の「複雑骨折」 → 骨が皮膚から飛び出た状態(開放骨折)
- 複雑骨折は感染症のリスクが高く、緊急性が高い
この違いを知っておくと、医師や我々柔道整復師の説明がより理解しやすくなるはずです。
当院では、骨折後のリハビリや、交通事故による怪我の治療も専門的に行っております。もし不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
接骨院の「役割」をもっと知る
接骨院が「どんな場所」で、「どんな怪我」に対応できるのか。その全体像については、以下のページで詳しく解説しています。
→ 『【接骨院の基本を知る】院選びで失敗しないための3つの本質』
複雑骨折(開放骨折)は、特にバイクや自転車などの交通事故で発生しやすい怪我の一つです。
事故直後の対応から保険の手続き、リハビリまで、交通事故治療の全知識は以下の『教科書』にまとめています。


