前十字靭帯再建手術後のリハビリテーションにおいて、屈曲可動域が、一定の角度で、停滞する、という問題は、多くの患者様が、直面する、深刻な課題です。
こんにちは。長岡京市のなかの接骨院です。
この記事は、その、術後の可動域制限が、単なる「努力不足」や「時間の問題」ではなく、明確な、科学的根拠に基づいた、3つの、根本的な“原因”によって、引き起こされているという“事実”を、解説するものです。
- 原因① 構造的癒着
- 原因② 膝蓋骨の軌道異常と、脂肪体の炎症
- 原因③ 神経性筋抑制(防御性収縮)
この記事を最後まで読むことで、あなたは、ご自身の膝に、今、何が起きているのかを、正確に理解し、「代償運動のリスク」を回避し、「根本改善への、2ステップ・アプローチ」という、論理的な、次の一歩を、踏み出すための、全ての知識を、手に入れることができます。
【第1章】膝の可動域制限 3つの根本原因
構造的癒着
手術後の膝が動かなくなる原因は、骨や新しく作った靭帯そのものではなく、レントゲンには映らない、より繊細な組織に隠されています。
- 1手術による組織損傷
まず、手術によって軟部組織に意図的な創傷が発生します。
- 2修復細胞の活性化
体を治すために、修復細胞である「線維芽細胞」が活性化し、傷を埋めるための材料となるコラーゲン線維を大量に産生し始めます。
- 3過剰な線維化
この修復プロセスが過剰に進むと、本来は別々に滑らかに動くべき組織同士が、産生されたコラーゲン線維によって、まるで糊付けされたかのように固着してしまいます。
- 4可動域制限の発生
その結果、組織の滑走性(滑り)が失われ、物理的に関節を動かせない「可動域制限」として、私たちの前に現れるのです。
膝蓋骨の軌道異常と、脂肪体の炎症(ホッファ病)
手術後の痛みや可動域制限の、もう一つの“黒幕”。それは、「お皿(膝蓋骨)」とその“下”で起きる、極めて、厄介な“負の連鎖”です。
①
“軌道”が狂う
まず、手術の影響や、リハビリの過程で、大腿四頭筋の筋力バランスが崩れ、膝蓋骨(お皿)が、正しい“レール”の上を、走れなくなります(=膝蓋大腿関節症)。
②
“クッション”が、燃え上がる
そして、この、お皿の“軌道異常”が、その直下にある、神経が豊富なクッション「膝蓋下脂肪体(Infrapatellar Fat Pad(IPFP), 別名:ホッファ脂肪体)」に、慢性的な圧迫と摩擦を加え、強い“炎症”を引き起こすのです。これを発見者の名にちなみ、「ホッファ病」と呼びます。
③
“痛み”が生まれる
この、「軌道異常 → 炎症」という悪循環こそが、多くの患者様が訴える、「癒着だけでは説明がつかない、ズキズキとした、持続的な痛み」の、本当の正体です。
神経性筋抑制(防御性収縮)
そして、これらの「癒着」や「炎症」によって、引き起こされる、最後の“壁”。それが、あなたの“脳”が生み出す、無意識の“防御反応”です。
膝からの、絶え間ない“痛み”という危険信号に対し、脳は、「これ以上、動かすと危険だ!」と判断し、膝周りの筋肉を、常に緊張させる指令を、出し続けます。これが神経性筋抑制です。
【危険信号の流れ】
膝の痛み(癒着・炎症) → 脳への危険信号 → 無意識の筋肉緊張 → さらなる可動域制限
本人は、力を抜いているつもりでも、脳が、自動的にブレーキをかけ続けています。この状態は、意識的に、コントロールすることが、極めて困難です。
西洋医学との“ギャップ”
医師は、MRIなどで「手術後の癒着が原因ですね」と、その原因を特定することはできます。しかし、その後のアプローチは、薬の処方や「リハビリを頑張ってください」という指示に限られることが少なくありません。なぜなら、この、物理的に固まった「癒着」と、無意識にかけられた「神経のブレーキ」の両方を、同時に解放するという作業は、薬や注射では届かない、専門的な“手”による介入を、必要とする領域だからです。
そして、もう一つ、我々専門家が、常に疑いの目を向ける、“負の連鎖”が存在します。
【第2章】代償運動のリスク なぜ、膝の“放置”が全身の“時限爆弾”になるのか
「少し動きにくいだけだから」と、その“見えない壁”を放置してはいけません。
なぜなら、あなたの体は、一つの、完璧な“鎖”で、繋がっているからです。
この、全身が、まるで“鎖”のように連動する、人体の、最も、根源的な法則。それが、「運動連鎖(キネティックチェーン)」です。
なぜ、膝の痛みの原因が、足首にあるのか。なぜ、腰痛の原因が、股関節にあるのか。
その、全ての“謎”を解き明かす、当院の“治療哲学の全て”を、以下の、旗艦ページで、解説しています。
膝の可動域が制限されると、体は、無意識に、その動きを、他の関節(股関節や腰、足首)で、補おうとします。これを「代償運動」と言います。
この、不自然な“肩代わり”こそが、あなたの全身のバランスを、静かに、しかし、確実に蝕み、全く別の場所(腰痛、股関節痛、反対側の膝の痛みなど)に、“次なる、悲劇”を引き起こす、“時限爆弾”の、正体なのです。
【第3章】根本改善への2ステップ・アプローチ
では、この“壁”と“時限爆弾”を、どうすれば解除できるのでしょうか。それには、正しい手順があります。
- 癒着の直接的解放
- 神経系の再教育
- 動きの土台再構築
ステップ① 専門家による機能回復
我々、徒手療法の専門家は、西洋医学の“次の一手”を持っています。
- 癒着へのアプローチ
私たちの手は、癒着を起こしている正確な組織の層を見つけ出し、軟部組織の「可塑性(かそせい)」の原理を利用して、持続的かつ適切な圧を加え、物理的にその固着を解放していきます。 - 脳へのアプローチ
ただ闇雲に動かすのではなく、関節や皮膚にあるセンサーを適切に刺激し、脳へ「この動きは、もう安全だ」という正しい情報を送り届けます。これにより、脳が無意識にかけていた過剰なブレーキを解除し、「神経系の再教育」を促すのです。
ステップ② 患者自身による、動作の再学習
専門家によってゼロの状態に戻った体で、今度はあなた自身が、正しい動きを脳と体に再教育していきます。重要なのは、決して無理をせず、痛みを感じない範囲で、「安全な動き」を脳に再認識させてあげることです。
- 安全な可動域訓練
- 神経エクササイズ
- 正しい動きの習得
1.安全な可動域訓練 タオルスライド
これは、癒着した組織に対し、安全かつ持続的な伸長ストレスを加え、物理的な可動域を少しずつ広げていくための、最も基本的なエクササイズです。

- 床に座り、壁などに背中をもたせかけ、両脚をまっすぐ前に伸ばします。
- 手術した側の足の裏に、たたんだタオルを敷きます。
- タオルの両端を両手で持ち、ゆっくりと、タオルの摩擦を感じながら、かかとを床につけたままお尻の方へ引き寄せ、膝を曲げていきます。
- 「これ以上は無理なく曲がらないな」というポイントで、決して無理せず、10秒間キープします。
- ゆっくりと元の位置に戻します。この動作を5〜10回繰り返します。
- 「痛み」は絶対的なストップ信号です。 決して痛みを感じるまで曲げないでください。
- タオルの補助を使うことで、筋肉の余計な力みを抜き、癒着した組織に集中して、穏やかなストレッチをかけることができます。
2.神経エクササイズ 感覚の再統合
これは、脳が無意識にかけている“ブレーキ”を解除するためのトレーニングです。目的は、筋肉を鍛えることではなく、膝の動きと感覚を、脳にもう一度「安全なものだ」と認識させることです。

- ベッドや椅子に浅く腰掛け、リラックスした姿勢をとります。
- ゆっくりと目を閉じ、ご自身の膝の感覚に意識を集中させます。
- 世界で最もゆっくり動く機械になったつもりで、本当に、本当にゆっくりと、痛みが出ない範囲で膝を伸ばしていきます。5秒以上かけて、じっくりと伸ばしてください。
- 完全に伸びきったら、今度は同じように、5秒以上かけて、ゆっくりと膝を曲げていきます。
- この「超スローな曲げ伸ばし」を、5回繰り返します。
- このエクササイズの主役は、あなたの「意識」です。膝の皮膚がどう動き、筋肉がどう収縮し、関節がどう滑るか、その微細な感覚を、脳で味わうように集中してください。
- 速く、大きく動かす必要は全くありません。むしろ、小さく、ゆっくり、そして丁寧に行うことこそが、脳の過剰な防御反応を解き放つ鍵となります。
結論 専門家選びの、5つの着眼点
この記事で得た知識は、あなたが今後、専門家を選ぶ上で、最も信頼できる“羅針盤”となります。
あなたの膝だけを診るのではなく、その可動域制限が引き起こす全身の運動連鎖まで目を向け、「癒着」と「炎症」、そして「脳のブレーキ」という、“3つの壁”全てに、アプローチしてくれる専門家。
それこそが、あなたの膝を本当の意味で救うことができる、真のパートナーです。
「癒着」と「脳のブレーキ」の両方にアプローチできる専門家を見つけることが、真の回復への最短ルートです。



