【生理学】なぜストレッチで逆に痛くなる?筋肉の「スイッチ(反射)」を理解する

「ストレッチを頑張っているのに、体が柔らかくならない」
「力を抜いてと言われても、どうすればいいか分からない」

実は、筋肉は「ゴム」ではなく、精密な電気信号で動く「機械」のようなものです。
無理やり引っ張ると、壊れないように防御反応(反射)が働き、逆に硬くなってしまいます。

この記事では、当院が施術で利用している「筋肉を安全に緩めるための生理学的スイッチ」について解説します。

1. 筋肉のブレーキ「IB抑制(自原抑制)」

筋肉と腱の境目には、「ゴルジ腱器官」というセンサーがあります。
腱に強い張力がかかると、このセンサーが「これ以上引っ張ると腱がちぎれる!」と感知し、脊髄に信号を送ります。

スイッチが入るとどうなる?
脊髄からの命令で、その筋肉に対して「力が入らないようにする(弛緩させる)」という抑制がかかります。
これが「IB抑制」です。

臨床での活用法

当院では、ガチガチに固まった筋肉(特に脳卒中後の痙縮など)に対して、筋腹を揉むのではなく「腱を持続的に圧迫」します。
これにより、擬似的に張力を感じさせ、脳の反射を利用して筋肉をふわっと緩めるのです。

2. ストレッチは「30秒」待たないと意味がない?

「反動をつけたストレッチ(グイグイ押す)」が良くない理由は、別の反射である「伸張反射(Ia線維)」が働いてしまうからです。
急に伸ばされると、筋肉は縮もうと抵抗します。

逆に、ゆっくり伸ばして20〜30秒以上キープすると、先ほどの「IB抑制」が優位になり、筋肉が「あ、伸びても大丈夫なんだ」と学習して緩み始めます。

3. 「力が抜けない」正体はガンマ・ループの暴走

「力を抜いてください」と言われても抜けない方は、筋肉の問題ではなく神経の感度設定の問題です。
これを「ガンマ・ループ(γ-loop)」と言います。

  • 脳がストレスを感じていると、筋肉のセンサー(筋紡錘)の感度をMAXまで高めてしまいます。
  • すると、ほんの少し動いただけで「伸びすぎ!」と反応し、常に力が入った状態になります。

この場合、マッサージよりも「ゆっくり呼吸をする」「微細な揺らし(振動)」を与えることで、感度設定をリセットする必要があります。

まとめ

筋肉を緩めるには、力ではなく「脳と神経のスイッチ」を操作する必要があります。
当院では、これらを熟知した上で、患者様の状態に合わせた「痛くないアプローチ」を行っています。