「体を柔らかくしたい」
「ケガを予防したい」
「運動後の疲労を取りたい」
様々な目的で、多くの人が、日々、ストレッチに取り組んでいます。
しかし、もし、あなたが信じてきたその「常識」の多くが、科学的には、ほとんど意味がないとしたら…?
この記事では、ストレッチ研究の第一人者である、西九州大学の中村正人先生が語る、私たちの常識を根底から覆す「ストレッチの6つの新常識」について、一人の臨床家としての視点を交えながら、分かりやすく解説していきます。
この記事を読み終える頃、あなたは、ストレッチという行為の「本当の価値」を知り、あなたの貴重な時間を、最も効果的に使うための、新しい羅針盤を、手にしているはずです。
この記事について書こうと思ったきっかけはこちらの記事から
→なぜ、あなたの痛みは治らないのか?― 最新研究で解き明かされる「痛みの、本当の姿」
【誤解①】「体が硬い」は、筋肉のせい?
真実:差は、筋肉ではなく「痛への我慢強さ」
体が硬い人と柔らかい人の違いは、筋肉そのものの物理的な硬さではなく、主にストレッチによる痛みへの感じ方や、我慢強さにあります。ストレッチを続けることで、脳がその痛み刺激に「慣れ」、より深く体を伸ばせるようになるため、「気持ちの問題」が大きいとされています。
【誤解②】ストレッチの時間は、短い方が良い?
真実:効果を得るには「最低30秒」、しかし持続は「10分未満」
研究によると、関節の可動域を広げるには、最低でも30秒(高齢者は60秒)のストレッチが必要です。15秒程度では、残念ながら、ほぼ効果はありません。
しかし、最も衝撃的なのは、その効果が、わずか5分~10分で、元に戻ってしまうという事実です。
【誤解③】筋肉は、ストレッチで柔らかくなる?
真実:筋肉を柔らかくするには「1日合計120秒以上」が必要
筋肉そのものを、物理的に柔らかくするためには、1日合計で120秒(2分)以上のストレッチが必要だと、最新の研究は示しています。
これは、例えば「30秒を4回」のように、分割して行ってもOKです。
また、より効果を高めたいのであれば、「痛いけど、我慢できる」という、少し強めの強度で行う方が、筋肉の硬さは、より効果的に減少します。
【誤解④】ストレッチは、全てのケガを予防する?
真実:骨折や捻挫は、ほぼ予防できない
結論から言うと、「ストレッチで、全てのケガが予防できる」ということは、ありません。
骨折や靭帯損傷といった、強い外力によるケガは、ストレッチでは予防できません。
ただし、肉離れなど、筋肉系のオーバーユース障害に関しては、良い効果をもたらす可能性があります。

ストレッチの最大の予防効果は、「自分の体のコンディションを知る」という点にある、と私は考えています。「今日は、いつもより硬いな」と気づくことができれば、練習量を調整するなど、大きなケガを未然に防ぐための、賢い判断ができるのです。
【誤解⑤】疲労回復や、筋肉痛に効く?
真実:「疲労“感”」は取れるが、「疲労」そのものは取れない
ストレッチは、運動後に落ちた筋力など、物理的な「疲労」そのものを、回復させる効果はありません。しかし、「あー、疲れたなー」という、主観的な「疲労感」は、確かに楽になります。
同様に、運動前後のストレッチで、筋肉痛の発生を予防することはできませんが、すでに起きている筋肉痛の「痛み」を、一時的に和らげる効果はあります。

そもそも、運動後の疲労や筋肉痛の主な原因は、筋肉内に溜まった「疲労物質」です。であるならば、本当にやるべきことは、ジョギングや入浴などで、全身の「血流」を改善し、その疲労物質を、速やかに洗い流してあげることです。ストレッチは、その「補助」と考えるのが、最も効果的です。
【誤解⑥】リラクゼーション効果は、本当にある?
真実:はい、それは、本当です。
ストレッチには、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果が、科学的にも示唆されています。深呼吸をしながら行うことで、その効果は、さらに高まります。

ただ、もし、あなたが「リラックス」を一番の目的とするならば、私は、呼吸法と動きを連動させる「ヨガ」の方が、より効果的ではないか、と考えています。目的によって、最適な手段は、変わってくるのです。
【結論】ストレッチを「猛進」するな。賢く「付き合え」。
ストレッチは、かつて私たちが考えていたような「万能薬」ではありませんでした。
しかし、痛みの「感じ方」を変え、関節の「可動域」を広げ、そして、心を「リラックス」させる効果は、確かに存在します。
最も重要なのは、「何のために、ストレッチをするのか」を、あなた自身が理解し、自分の目的に合わせて、正しい方法で行うことです。
漫然と行うのではなく、自分の体のコンディションを把握するための「対話ツール」として、無理なく、継続すること。
それこそが、ストレッチとの、最も賢い付き合い方なのです。
【出典・参考文献】
- 中村雅俊 西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科 理学療法学専攻 専攻主任 主な著書『あらゆる不調が消える 世界一のストレッチ』『たった3秒筋トレ 世界最短時間で10歳若返る』