あなたの肩の不調、どの“分岐路”にいる?「隠れ腱板損傷」の正体と“切れる”前の最終警告

「腕を上げると、力が入りにくい…」
「ただの四十肩だと思っていたけど、なんだか違う気がする…」

その、あなたが「自分には関係ない」と見過ごしているかもしれない、ささいな肩の不調。実はそれこそが、肩を支える腱板が悲鳴を上げ始めている“隠れ腱板損傷”のサインかもしれません。

この記事で、あなたが手にする3つの知識
  • あなたの肩の不調が、本当に腱板損傷なのか、それとも五十肩など他の疾患なのかがわかる【見分け方】
  • なぜ腱板の不調が起きるのか、その【本当の原因】(“切れる”前の段階から始まる、という専門家の新常識)。
  • そして、手術ではない、【根本的な改善アプローチ】への道筋。

この記事は、あなたが“断裂”という最悪の未来を回避するために、今、知っておくべきことの全てを解説する、専門家からのメッセージです。

この記事では「腱板損傷」の全体像を専門的に深掘りします。もし、ご自身の症状が何なのかまだ分からない方や、肩周りの不調全体の“分岐路”を知りたい方は、まず全ての記事の司令塔である『肩甲骨の教科書』からお読みいただくことをお勧めします。

もし、肩甲骨を動かす重要な筋肉である「回旋筋腱板(かいせんきんけんばん)」の構造など、より専門的な解剖学に興味がある方は、まずこちらの専門書からご覧いただくのもお勧めです。
『肩甲骨の解剖学』で筋肉の“設計図”を見る

【運命の分岐路】あなたの不調は、どの物語の序章か?

「肩の動きが悪い」という、たった一つのサイン。しかし、その根本原因と、放置した先にある未来は、決して一つではありません。あなたの体の中では、主に3つの異なる物語のいずれかが始まっています。

分岐路

 
1

「関節包」が凍りつく物語
『五十肩』

関節を包む袋そのものが炎症を起こし、やがてカチカチに固まってしまう道です。主な特徴は、あらゆる方向に腕が上がらなくなる、強力な「可動域制限」です。

 
2

「骨と腱」が衝突する物語
『インピンジメント症候群』

肩甲骨の動きの悪さが原因で、腕を上げる際に、肩の内部で骨と腱が物理的に衝突を繰り返す道です。主な特徴は、腕を上げる“途中”だけで痛みが出る「有痛弧(ゆうつうこ)」です。

 
3

「腱板」そのものが弱っていく物語
『腱板損傷』

そして、この記事で詳しく解説するのが、第3の道です。衝突や血行不良により、肩を支えるインナーマッスルである「腱板」そのものが変性し、機能不全に陥っていく物語。主な特徴は、腕を上げようとしても「力が入らない」ことです。

 

ここから先は、この「腱板損傷」の道について、その始まりから終わりまでを、詳しく解説していきます。

腱板損傷と類似疾患の図解

【本当の原因】なぜ、あなたの腱板は傷ついてしまうのか?

腱板損傷は、単なる「使いすぎ」や「年のせい」だけで片付けられるものではありません。その背景には、ほとんどの場合、避けることのできたはずの、明確な“原因”が存在します。

原因①:慢性的な「インピンジメント(衝突)」

腱がすり減っていく直接的な原因の多くは、肩の内部で骨と腱が慢性的に衝突し続ける「インピンジメント症候群」です。一本の頑丈なロープも、岩角で何年も、何十年も擦れ続ければ、やがては切れてしまいます。あなたの腱板でも、同じことが起きているのです。

【真の黒幕】衝突を引き起こす「肩甲骨の機能不全」

では、なぜ「衝突」が起きてしまうのでしょうか?
その根本原因、すなわち“真の黒幕”こそ、「肩甲骨の動きの悪さ(肩甲骨ジスキネジア)」です。土台である肩甲骨が正しく動かないために、腕を上げるたびに、腱板が逃げ場のない衝突にさらされ続けるのです。

つまり、【肩甲骨の機能不全 → 慢性的なインピンジメント → 腱板の摩耗 → 損傷・断裂】という、負の連鎖が存在するのです。

腱板損傷の原因の図解

【専門家の新常識】腱板損傷は“3つのステージ”で徐々に進行する

腱板損傷は、ある日突然起きる「事故」ではありません。それは、腱が徐々に劣化していく「物語」であり、主に3つのステージに分類されます。ご自身の現在地を知ることが、正しい対処への第一歩です。まずは、この物語の全体像をご覧ください。

ステージ状態主なサイン回復の見込み
ステージ①
機能的損傷
まだ“切れていない”が、腱の質が劣化し、動きが悪くなっている「隠れ腱板損傷」の状態。「力が入りにくい」「鈍痛」など、軽度な違和感。根本改善の可能性が最も高い、希望のステージ。
ステージ②
部分断裂
腱の線維の一部が、明確に断裂している状態。動作時の明確な痛み。リハビリによる改善を目指すが、断裂の程度による。
ステージ③
完全断裂
腱が完全に切れ、機能不全に陥った状態。「力が入らない(ドロップアームサイン)」「夜間痛」。多くの場合、手術が検討される最終段階。
腱板損傷 進行の3ステージ

ステージ①こそが最重要
「隠れ腱板損傷」と“偽五十肩”

この記事で最もお伝えしたいのが、このステージ①:機能的腱板損傷です。レントゲンには映らないため「異常なし」とされがちですが、肩の不調を訴える方の大多数が、この段階、あるいはその予備軍です。

この段階は、腱板の“動きが悪くなった”状態であり、一見すると腕が上がらないため「五十肩だ」と思い込まれがちです。しかし、関節そのものが固まる本物の五十肩とは異なり、問題の根本は筋肉や筋膜の“機能不全”にあります。私たちは、これを“偽五十肩”と呼んでいます。

そして、この“偽五十肩”の素晴らしい点は、適切な筋膜リリースや運動療法によって、劇的に改善する可能性を秘めていることです。

【実践編】“切れる”前に、腱板の機能を復活させるアプローチ

なぜ「筋膜リリース」で、劇的に動きが良くなるのか?

“偽五十肩”のように、腱板が機能不全に陥っているケースでは、問題は腱そのものよりも、痛みによって過緊張を起こしている周りの筋肉や筋膜にあります。

痛みを感じると、私たちの脳は、それ以上悪化させないように、無意識に肩周りの筋肉を固める“ブレーキ”をかけます(神経筋抑制)。筋膜リリースは、この不要になったブレーキを物理的に解除し、脳からの運動指令をリセットするための、非常に有効な“スイッチ”となるのです。

【最重要】根本原因「肩甲骨の機能不全」へのアプローチ

しかし、ブレーキを解除しただけでは、根本的な原因が解決していないため、痛みや動きの悪さは再発します。二度と問題を繰り返さないためには、“真の黒幕”である「肩甲骨の機能不全」を改善することが不可欠です。

腱板に負担をかけない、滑らかな肩甲骨の動きを取り戻すための、安全で効果的なセルフケアについては、こちらの専門記事で詳しく解説しています。まずは、専門家の指導のもと、無理のない範囲で、できることから始めてみましょう。

【最終警告】そして、物語の終わりは「本物の断裂」へ

ステージ①のサインを見過ごした、その先に待つ未来

ここまで、“切れていない”希望のステージである「機能的腱板損傷」についてお話してきました。しかし、もしこの重要なサインに気づかず、あるいは「まだ大丈夫だろう」と放置してしまった場合、腱板の物語は、残念ながら次の章へと進んでしまいます。

ステージ②:部分断裂 と ステージ③:完全断裂

慢性的な衝突(インピンジメント)によって腱がすり減り、やがて部分的に、あるいは完全に断裂してしまった状態です。こうなると、以下のような深刻な症状が現れます。

  • 耐え難い夜間痛:夜、痛みで目が覚め、眠れない日々が続く。
  • 著しい筋力低下:腕を上げようとしても力が入らず、ストンと落ちてしまう(ドロップアームサイン)。
  • 手術という選択肢:保存療法で改善が見られない場合や、断裂が大きい場合には、関節鏡を使った手術が必要となることもあります。
院長
院長

この最終章に至る前に、あなたの体は「力が入りにくい」「鈍い痛みがある」といったサインを、何度も送ってくれていたはずです。この記事が、そのサインに気づくための、最後のきっかけとなれば幸いです。

腱板断裂のイラスト

まとめ

「腱板損傷」と診断されても、すぐに絶望する必要はありません。あなたの症状が、まだ“切れていない”「機能的腱板損傷」の段階である可能性は十分にあります。

大切なのは、ご自身の体の小さなサインに耳を傾け、その裏に隠された「肩甲骨の機能不全」という根本原因に、一日でも早くアプローチを始めることです。もし判断に迷う場合は、決して一人で悩まず、私たちのような専門家にご相談ください。

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